七分袖

clip!

午前5時。ステイメン師匠に二度目の電話を入れる。やっと出てくれてホッとする。
「もしもし…起きましたか?」
「ハフッ…サッキョキタイマイク」
「ん?あ、はい。とりあえず待ってます。」

さあ、初めての体験だ。ステイ師匠と日曜の朝から一緒に釣りするなんて今までなかった。
まず、朝が起きれないらしいのだ。釣り師としては致命的だが、キャラ的には申し分ないだろう。
数分後眠気眼で登場した師匠。真っ赤なTシャツだ。外見と中身のこのギャップはいったい?・・・
腕毛が逆立っているようなので「寒くはないですか?」と聞くと、「ハフッ」と言った。

なんじゃそら・・・。

道具を積み込みいざ磯へ向かう。
どう見ても寒そうにしてるので、こっちが気になる。ヒーターを入れる。
と、急に元気になる師匠。言葉も流暢になり、マイコーの話題で盛り上がり、涙を流すくらい笑っている。
腕毛の毛足がやっとなじんできたところで磯への入り口に到着。
四駆に切り替えて道無き道を更に車は突っ込んでいく。
ふと師匠を見ると、アレレ!?…ブルーな顔しとる。完全にひいている。
「ど、どがんしたと?」・・・「ん?…なんかこの先大丈夫かなと思ってね。うん。」・・・
そう、師匠は高所恐怖症。どうやら行く末の断崖絶壁を想像してブルーになっているっぽい。エ〜!?まさか今更帰ろうなんて・・・。あり得るから怖い。とりあえずかける言葉が見つからないのでスルー。強引に凸凹道を突っ走る。

準備を済ませ、「ちょっと様子見てきますから」と、断崖の上から釣り場を見下ろす。
師匠も気になったようで、後ろからついて来て様子を伺っている。
すると、ちょっとした小岩の上でツルッと滑る師匠。え〜!?まだ磯じゃないのに大丈夫かな〜?
で、磯を覗くと釣り場にはなんと先行あり。悩んだ末、別の磯への移動を決める。
「いけますか?」
「ん?ん〜、まあ、大丈夫じゃろ。。。」
少し引き返し、大瀬崎へ。途中、展望所で脱糞する師匠。こ、こんなとこで・・・急いでください!(笑)
無事うんこを放出し、駐車場到着。こっちは空いてた。
遊歩道を降りていく。師匠は未だ顔色が悪い。なにしろ様相から違う。
いつもならカッパの袖を七分まで捲っている師匠。常に釣りには全力で取り組むのだ!
今朝ははまだ下ろしたままである。これはめずらしい。
あまりに元気が無いので、大声で「元気ですか〜!」と、オレ。
すると「ハフッ!」という。な、なんじゃそれは?・・・
意味が分からないまま更に道を進み、20分で釣り場へ到着。

朝一は緩い潮が足下にあたっており、凄く釣れそう。
早速シャクリ初めると中層で何か掛かった。が、すぐに外れる。
師匠もシャクる。ロケーションに触発され、完全復活だ。
ところが時間を追う毎に潮目も遠退き、立神沖を南西方向に本流が走りだす。最悪のパターン。
ある程度サーチした後でオレは早めに釣果を諦め、師匠が巻き起こすであろう事件に備え、集中する。
突然、500mほど沖で巨大な水柱が上がる。すぐに師匠に伝える。
更に2体の巨魚が派手にジャンプ!バレンだ!
師匠、興奮を隠せない。「ウワ〜ッ!ス、スゲー!」
更に何度も跳ねる。2mは楽にありそう。
「かっこいい!」
断然やる気が出てくれて遂に師匠は袖を捲った。
で、でたっ!七部袖だ!根気強くジグを沈めていく師匠。
ところがジグが軽く、どうしてもスローな釣りになっている。しかもピラピラフォールのジグ。
ただ、これは仕方ない。タックルもままならないまま半ば強引に連れてきた感もある。
ただ、あいつが来ちゃうよ。そう思った矢先にヒット!

師匠はおそらく何が掛かったのか気付いてない(笑)
魚を回そうと必死に斜面を駆け下がっていく。かっこいい!磯ならではのスリリングなファイト。
たぶん魚が分からんので習慣的にヒラのファイトをしとる(笑)・・・おもろい。
ロッドを張らず慎重に根をかわす。
常に高い所から傍観しているオレには赤い魚が丸見え(笑)・・・師匠は真剣。
赤いのが見えたにせよ、おそらく「アカハタじゃね?」くらいのモチベーション。
そしてブリアゲル。すかさず師匠の表情に注目する。

師匠、魚の口元に異物を発見。・・・凝視。・・・二本のヒゲを確認。・・・顔歪む。

ん〜、いい顔だ(笑)

オレ「ウワ〜ッ、スゲーっ!やりましたね〜っ!」

師匠、またブルー入るが、すぐに復活。
午前10時。「帰りましょう」と伺い立てるも、「最後(11時)まで粘ろう!」と、前向きな判断。もちろん尊重する。
メーター位のメスシイラが足下に単発海遊。ジグをくわえるも掛からず。
潮は相変らずタルタル。11時、磯を後にした。

片付けて車に乗り込み帰路に向かう。

「ハフッ…」
「な、なんなんすか?そのハフッってやつ!」
「あ〜、これ?これはアクビだよ。」
「…。」

アクビだったんだ。。。

雨脚は強まり、肌寒い午後となった。

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